太鼓上達のヒント|フィードバック制御とフィードフォワード制御

人間の体には、動作や姿勢を制御・調整する仕組みとして、「フィードバック制御」と「フィードフォワード制御」の2つの制御方法があります。

2つの方法の大きな違いは、逐次、感覚器の情報をもとに調整をするのか、予測をもとに動くのかという違いです。

この違いを理解すると、太鼓が上手になるためのヒントが得られます。

ちょっと難しい話もありますが、とても大事な話なのでお付き合い頂ければありがたいです。

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フィードバック制御とフィードフォワード制御について

まずは、フィードバック制御、フィードフォワード制御というものが何かについて、「骨・関節・筋肉の構造と動作のしくみ」(深代千之、ナツメ社)というバイオメカニクスの本より引用させていただき、一部補足しつつ説明します。

フィードバック制御

フィードバック制御は、脳から指示された動作の結果を確認して修正指示しながら行う動作

フィードバック制御

フィードバック制御は、感覚器からの情報を脳が集約、分析して動きを修正する指令を送る制御方法

以下の3つのステップからなる。

  1. 【感じる】 感覚器が、姿勢の変化や動きを触覚、視覚、平衡感覚などの変化としてとらえる。
  2. 【判断・指示】 これらの情報を脳に戻し、脳が集約・分析。
  3. 【動く】 分析した結果、動きを修正するための指令が筋肉に送られ動く。

指令⇒活動⇒修正指令⇒活動⇒修正指令というサイクルを繰返す。

サイクルが閉じているので、閉ループ制御とも言う。

フィードフォワード制御

フィードフォワード制御は、予測に基づき脳から筋肉へ指示がでる動作。

フィードフォワード制御

フィードフォワード制御は、経験をもとにした予測によって必要な筋力の大きさを決定する制御方法
一方通行なので素早い反応ができるが、筋肉の活動パターンとしては限られた動きしかでいない。

「例えば、ご飯茶碗を持ち上げるときに何十キロもあるダンベルを持ち上げるような筋力を発揮することがないように、人間は動作に合わせて適切な力を発揮する。これは経験をもとにした予測によって必要な筋力の大きさを決定しているということ。」

2つの制御は混在して動作

実際の動作をする際は、フィードバック制御とフィードフォワード制御が混在する。

フィードフォワードで動作が始まった後、筋肉や神経からのフィードバック信号を分析しながら、より正確な動作をするために、タイミングやグレーディング(力の強さの調整)を行う。

2つの制御を組み合わせることで、予測や動きの正確さ、素早さの精度を高めて、巧みな動作が構築されていく。

「ご飯をよそってもらってその茶碗を受け取る瞬間はフィードフォワード制御によっておよその力加減を予想して出力しますが、茶碗を持った直後にはフィードバック制御によって適切な力加減を調節しながら茶碗を動かすのです。」

フィードバック制御とフィードフォワード制御の比較

この二つの制御方法の違いを比較表にしてみました。
フィードバック制御とフィードフォワード制御の比較
表タイトルA フィードバック制御 フィードフォワード制御
説明 覚器からの情報を脳が分析して動きを修正する 経験を元にした予測によって筋肉を動かす大きさを決定。予測にもとづいて行われる制御。
構造 ループが閉じている。 一方通行。ループが開いている。
反応速度 ゆっくり。 素早い
反応動作の複雑さ 多様。複雑 単純。限られたパターン。
制御の結果 感覚器からの情報を解析しながら筋肉を動かすので、ぎこちない動きになる。 予測に基づくものなので、円滑な動きになる。

太鼓が上手くなるためには

さて、ここから本題です。

フィードバック制御、フィードフォワード制御という仕組みを前提に、太鼓が上手になるために何が大事かを考えています。

なお、ここでは動作の話に限定しています。

太鼓が上手になるには、これ以外に音楽的なセンスや表現力なども必要です。

ゆっくり丁寧に練習し、徐々にスピードを上げていく。

太鼓が上手な人は、狙った動作が正確に滑らかにできる人です。

例えば、速い動きと遅い動き、シンプルな動きと複雑な動き、大きな動きと細かな動きなど、これらを組み合わせて、滑らかに動けるということです。

滑らかに動くには、フィードフォワード制御が大事になります。

フィードフォワード制御によって、結果を出す(=目的の動きを達成する)には、経験をもとにした「予測」の質が大事であり、適切な予測をするには「経験」の質と量が大事です。

経験からの予測が適切であればあるほど、フィードバック制御が減り、フィードフォーワード制御が多くなり、滑らかですばやい動きが可能になります。

経験の質と量を強化するには、正確な動き(質)を何度も繰返す(量)ことが必要です。

ここでフィードバック制御が大事になります。

フィードバック制御がはたらくスピードで正確に動作すること、それを何回も繰返すことで経験が強化され、動作が定着し、フィードフォワード制御に移っていくことができます

したがって、ゆっくり丁寧に練習し、徐々にスピードを上げていくという練習方法は、理にかなった方法といえます。

上達の3段階

また、フィードバック制御において、体の外部の情報と内部の情報ではスピードの差があります。

  • 外界の情報のフィードバック(視覚、聴覚)は遅い。
  • 内部の情報のフィードバック(身体座標)は速い。

なので、フィードフォワード制御と組み合わせると、上達には3つの段階があると考えれます。

上達の3段階
段階 説明 制御方式
1段階 最初は目や耳で確認しながら動作を安定させていく。 フィードバック
2段階 慣れてくると手や足や体幹がどこにあるか(身体座標)という感覚によって制御するようになっていく。 フィードバック
3段階 さらに慣れてくると、適切な予測によって筋肉を動かすようになる。 フィードフォワード

繰り返し練習することによって、1⇒2⇒3と段階を踏んで上達していくことで、狙った動きが滑らかにできるようになります。

また、1段階よりも3段階の時の方が目や耳といった感覚器に余裕があります。

余裕があるということは、より沢山の情報が集められるということです。

したがって、より繊細な感覚器からの情報をもとにフィードバック制御ができるようになります。

上達を妨げるもの、それはリキむこと

上達を妨げるものは何かというと、1から2、2から3と進む際に、間違った動きを覚えこんでいくことです。

いくらフィードフォワード制御が増えたとしても、間違った予測に基づいていては、結果も間違っているということ。

なので、上達のためには「間違っていることに気づくこと」がとても大切になります。

間違っていることに気づくには、感覚器と脳を働かせる必要があります。

リキんで練習をすると、感覚器が鈍ります。

リキんでいるときは、脳は筋肉の出力を上げることに必死で、感覚器からの情報を捌く余裕がありません。

したがって、リキむことは感覚器からの情報判断を鈍らせ、間違いに気づかなくなり、上達を妨げることになります

まとめ

バイオメカニクスの領域にある「フィードバック制御」と「フィードフォワード制御」という動作の巧みさの仕組みを紹介しました。

それを前提に、太鼓が上手になるためヒントを考察してみました。

  • 繰返し練習する
  • ゆっくり丁寧に練習し、じょじょにスピードを上げていく
  • 目や耳や身体座標などを使って感じること
  • 間違いに気づくこと
  • リキまないこと

ここで上げたヒントは、一般にもよく言われていることですが、「フィードバック制御」と「フィードフォワード制御」という仕組みから理解すると、ストンっと腹に落ちますね。

■参考資料

フィードバック制御、フィードフォワード制御の説明については、「骨・関節・筋肉の構造と動作のしくみ」(深代千之、ナツメ社)というバイオメカニクスの本より引用させていたきました。

この本は体の動きを、骨や筋肉のイラストを使って、わかりやすく説明しており、とても人の体のの動作の理解に役立つ、和太鼓をする人にはとても参考になる本です。

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